熊本県民新聞 WEB版
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発行者:福島 宏

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安物買いの銭失いの典型

昨年9月、内部告発によって発覚した事故米横流し事件は、醸造界を始め米菓の製造販売業者を巻き込んで社会問題化した。農水省がカビ、農薬などに汚染された米を工業用ノリ原料として三笠フーズに販売。同社はグループ企業を通して食用米として全国の醸造業者(酒類、味噌醤油の製造)米菓業者、給食業者らに販売して巨利を得た。九州でも酒造業者が大量に同社の事故米を購入していた為、事件が表面化し商品の自主回収に動いた。その中の1社でメディアが云う所の「被害を受けた酒造会社」である美少年酒造について、小紙なりの切り口で論評したい。

テレビ、新聞報道の全てが美少年酒造を被害者、三笠フーズやグループ企業の辰之巳を悪徳業者と色分けして報道している。筆者は事故米(汚染米)が酒や焼酎の原料に使われていたとの報道に接した時「えっ」と驚いた。と云うのは随分昔、酒造りに励む「杜氏」の話した言葉を覚えていたからである。テレビの映像であったと思うが、当時数人が大きなタンクの中をかきまぜている傍で1人の杜氏がマイクに向っていた。その杜氏は「酒は米が命です。原料米は厳選して仕入れ、一般の白米の半分になる位まで搗きます」「麹も重要で代々秘伝となっています」と語っていた。酒造りにはこの他、倉の湿度、温度が大きく作用する為厳冬期が醸造に適しているとも語っていた。恐らく、醸造技術はその後格段の進歩を遂げたのだろう。現在では年間を通して製造している様だ。麹や酵母も専門の会社が卸しているらしい。

だが、世の中の酒好きは「酒の原料米は地元産米を使用している」と信じていた節がある。事件報道後愛酒家何人かと話したが「あぎゃんおろか米ば使うとったとは思わんかった、2度と美少年は飲まん」怒りの声を挙げていた。 筆者自身、酒は体質に合わないので全く飲まない。どんな酒が出回ろうが関係ないが、一連の事件で美少年酒造が恰も無辜の被害者面をしているのが納得出来ない。紙面の都合で簡略に記す。朝日新聞の08年10月10日「美少年こだわりの限定酒 風評被害にしぼむ」として新しく売り出した「あきげしき」は米を山都町の酒米あきげしきを使用。水は阿蘇の伏流水、酵母は熊本酵母を使用。1万本を完売、第2弾を9月に仕込む予定だったが中止。経済酒(この表現納得いかず)(美少年、美少女他6種か)を回収した中にあきげしきが含まれていてショックを受けた(副社長談)。

同12月24日「08熊本 この1年[1]」「風評被害バネに『前へ』汚染米混入が指摘されて以来取引先から返品、回収が7500本、10月の売上げ昨年の1/20『不正を見抜けなかった企業体質を変えると緒方副社長』原材料を県産に限定、コストは3倍かかる以下略」。毎日新聞08年9月25日「証明もあるのに 美少年酒造社長大きな憤り」の見出しで「三笠フーズの関連会社辰之巳から原材料を仕入れていた美少年は24日記者会見、緒方直明社長は『辰之巳から国産米証明を折にふれて文書で出してもらっており今年も3月に受取っていた…大きな憤りを感じている』と話した以下略」。熊日9月10日「三笠フーズ汚染米 仕入れ3円販売70円」「菓子製造36社にも流通」の見出し「…1キロ当たり3-12円で仕入れた汚染米を鹿児島県内の焼酎メーカーに同70円程度で売却していた可能性…略」。三笠フーズは3-12円で仕入れ十数倍の利益を上乗せして酒造会社に卸していた訳だ。輸入米はベトナム産もほぼ同価格の屯当り7万円、中国米9万円前後。これらに比して国産は2-4倍は高いらしい。らしいと云うのは、酒造会社が「酒用米」として直接農家に栽培させている米価と、農協や商社を通して購入する米に価格差があるからである。

しかし、単純に考えて何故地元産の米を使わなかったのか、農水省が非食用米として売る米だ。相当質は悪いだろう。それでも清酒や焼酎は出来るのである。県産の2等米やくず米でも充分ではないか。鹿児島の業者も、美少年酒造の社長も「強い憤りを感じる」と語っているが、本心は「ばれちゃった」ではないか。私達が日常ごはんとして食べている米だが、米の良し悪しは見た目で充分判別出来る。ましてプロである酒造会社が見分けられない訳はなかろう。「劣等米だから安い、だが酒は造れる」で仕入れていたのではないか。返品、売上げ不振は身から出た錆。正直の頭に神宿る。それが表沙汰になった途端被害者面するのは如何なものか。見苦しい限りだ。